日本初のAD認定ファシリテーター誕生!

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日本初のAD認定ファシリテーター 本田 忠行さん

日本で初のAD認定ファシリテーター誕生を祝して

ADとODについての考察
 
AD(アンティシペーション・ダイアローグ)は、2016年にフィンランド人のトム・アーンキルさんとヤーコ・セイクッラさんのお二人よる訪日講演会と、両者の共著である「オープンダイアローグ」日本評論社、高木俊介・岡田愛(訳)発刊によって、日本で多くの人に知られるようになりました。
 翌年の2017年にはADの普及活動を掲げてNPO法人DPI (特定非営利活動法人ダイアローグ実践研究所)が発足し、2018年4月 ー2019年2月の期間にAD開発者のトム・アーンキルさん以下、フィンランド講師3名および受講者60名を迎えて、第1期AD認定ファシリテーターのセミナーが開催されました。その第1期生である本田忠行さん(写真)は、この年間セミナーを受講した後、認定条件であるADファシリテーター実習(3役+SV)の全てを修了され、めでたく日本で初めてのAD認定ファシリテーターとして認定されました。

トムさんからの祝辞

2つのダイアローグアプローチ:
 日本で初のAD認定ファシリテーター誕生の機会に、ADとその姉妹編とも言えるODとの関係について簡単に述べてみたいと思います。
 フィンランド発祥のADは、「未来語り」とも訳されていますが、その特徴は医療・福祉・教育の分野において取り入れられている多職種連携を支える前向きなアプローチだと言えます。職場内でのコミュニケーションや人間関係がうまくいかない、クライアントの支援状況に行き詰まっている、あるいは民間や公共の組織において、メンバーが共同して未来計画を作る時などに大きな成果を得ています。
 他方、日本でも一般に知られるようになったODは、同じくフィンランド発祥であり、かつネットワークミーティングとダイアローグという基本コンセプトをADと共有しています。とはいえ、両者にはいくつかの大きな違いもあります。例えば、ODは、精神医療における治療ミーティングとして開発され、「7つの原則」という大きな枠組みの中とは言え、自由で開放的なダイアローグのプロセスが特徴ですが、ADのプロセスは、いくつかの決まった型の質問に従って行われ、とても構造化されていると言えます。さらにODは成果を求めずに、ニーズに応じて何度も会合がもたれますが、ADは基本的には1回のみの会合で、具体的なアウトカムを得ることが期待されています。
 このように、一見、ODの自由で開放的なプロセスの方が取り組みやすく、誰にでもできて容易な印象を受けますが、実際は心理療法の専門的知識と長年の臨床経験が求められます。ODが開発されたフィンランドのケロプロダス精神病院では、新規採用のスタッフにはオープンダイアローグについて1年間の院内講習を行い、さらに医師や看護師などの医療スタッフの8割は、3年半の家族療法士になる教育を受けていました(2015年視察当時)。このことからも、日本で精神疾患患者とそのネットワーク(家族、友人、支援関係者)を対象としてODを行うには、予算的な面も含めて、困難で多大な課題を含んでいることが推測されます。
他方、ADは、フィンランドにおいては2年間の講習会を受講した有資格のファシリテーターが関わって実施されますが、ファシリテーターの専門職は主に教員、保育士、社会福祉士などのソーシャルワーカーが大半を占めています。またADは、深刻な依存症や精神疾患などの問題を抱えている人は対象とせず、育児や夫婦関係に悩んでいる家族、学校や保育所でのトラブル、人間関係やコミュニケーションがうまくいかない地域の組織や法人など広い範囲で適用されています。つまり、ADは心理療法や治療としてではなく、問題が深刻になる前に、関係者の皆で「予防的に話し合い」をする面が特徴的だと言えます。
 このように、元来、ODとADという2つのダイアローグのアプローチには共通点と大きな違いがありますが、日本においては、両者が混合されて紹介、導入される傾向が見られます。ODは精神疾患の治療ミーティングのアプローチではなく、さらに広範囲に日常的な会話の場や組織の運営会議などにおいても応用されたり、逆にアンティシペーションダイアローグが精神疾患患者やその家族との対談にも使われたりしているようです。
 ODとADの両者は、それぞれ具体的な状況とその課題にたいして、長年にわたる実践と経験にもとづいて形成されたアプローチですが、その応用範囲については、特に制限や制約がありませんが、異なった文脈においての応用がどのくらい有効なのかは、今後の実践と研究によって明らかになることでしょう。
 日本では最近になってダイアローグへの関心が高まっていますが、ここにADの最初の認定ファシリテーターが生誕したことは決して偶然ではありません。これをスタートとして様々な文脈での実践と発展に期待をかけたいと思います。

NPO法人ダイアローグ実践研究所 理事 
片岡 豊(デンマーク在住)
2021年10月2日